シン・ゴジラ ゴジラ 伊豆大島

【シン・ゴジラ 映画】伊豆大島が「ゴジラ」に頼る、残念な思考

2017-01-01 15:10:01


 2016年末、「これからの日本」を暗示するような騒動が起きた。

 伊豆大島(東京都大島町)で「観光振興の起爆剤」として巨大な「シン・ゴジラ像」の設置計画が進んでいたが、住民の4分の1にあたる2100人分以上の反対署名が寄せられて白紙撤回されたのである。【映画『リング』に登場する貞子は伊豆大島出身】 一番の理由はカネだ。「伊豆大島火山博物館」の敷地内に設置される計画だった像の高さは土台を含めて約12メートル。足元からはミストが噴出し、夜はライトアップされて劇中で大暴れしたときのように背中からレーザー光線を発し、口から火を吐くという東京・お台場の等身大ガンダム像を彷彿とさせる演出を想定していた。

 これだけのことをやれば当然、費用はかさむ。東宝へ支払う版権も含めた総事業費は約1億9000万円。さらに維持費として年間600万円が流れていく。町としては、5年間で観光客が約3万人増え、6億5000万円の経済効果をもたらすとソロバンをはじくが、「本当に町が潤うのか」「そんなお金があるなら医療や福祉を充実して」などの声があちこちからあがったのである。

 「ハコモノ」をつくりたがる自治体と、有効な税金の使い方を求める住民の対立なんて、昔からよくある。これのどこが「これからの日本」なのさ、と首を傾げる方も多いだろうが、実はこの騒動の本質はそこではない。伊豆大島が直面している問題を端的に言うと、「人口減少」と「基幹産業がない」という2つに集約される。

 2016年3月の「大島町まち・ひと・しごと創生総合戦略」によると、大島町は毎年総人口比1%の割合という急速なスピードで人口が減っており、2010年には「過疎地域」に指定されている。

 老年人口比率は31.7%。若者の多くは島から出てしまうので、20代の労働力人口が極端に少ない。2010年時点で町の主たる労働力となっている55歳~64歳世代の方がリタイアをすると、ガクンと働き手がいなくなる。

 一方、その人口減を補うような産業があるかというと、かなり厳しいのが現実だ。全国平均からすると、漁業や農業という第一次産業に従事している方の割合が多いので、ここも高齢化で先細りだ。製造業で従事するのは町で100人ほど。男性の多くは建設業に卸業・小売業、女性の多くは宿泊・飲食、医療・福祉という典型的な「基幹産業のない地方の町」の様相を呈している。

●観光をどう産業化させていくか

 そんな伊豆大島の貴重な「外貨」獲得の手段となっているのが年間20万人の観光客だ。納税者が減って、高齢者福祉を受ける方たちが雪だるま式に増えていく町としては、この観光客数を増やして「観光」を基幹産業化するしか道はない。つまり、今回のシン・ゴジラ像騒動が浮かび上がらせた問題を一言で言うとこうなる。

 「基幹産業のない人口減少社会が観光をどう産業化させていくか」

 個人的には、これこそが2017年の日本経済を考えるうえで避けては通れないテーマだと思っている。

 総務省によれば日本の老年人口比率(2016年9月現在)は27.3%で3割台が目前に迫っている。つまり、伊豆大島は近未来の日本の姿なのだ。とはいえ「基幹産業がない」という文言に殺意を覚える方も多いだろう。鉄鋼業や製造業の勢いはないが、先端医療やロボットやら、まだまだ世界トップレベルの技術を誇る分野もある。「日本の技術力は世界一ィィィーーーー! 」という『ジョジョの奇妙な冒険』のシュトロハイム少佐ばりの絶叫があちこちから聞こえてきそうだ。

 断っておくが、そういう素晴らしい技術を有する企業や、これから成長が期待できる分野を否定しているわけではない。ただ、それらの「ひと握りの企業」によって、疲弊した地方経済すべてを盛り立てることができるかというと、それは現実的には難しいと申し上げているだけだ。

 人口がタワーオブテラーのように急降下する日本では労働力も市場としての旨味が減るので、世界に誇れるような技術力をもつ企業であればあるほど、安い労働力やサプライチェーンの優位性を求めて海外へ飛び出していく。かつて地方経済繁栄の原動力となった「企業城下町」というモデルは完全に崩壊してしまっているのだ。一方で、佐川急便の荷物蹴り上げ事件に象徴されるように、労働人口が急激に減っている中で、身の丈に合わぬ「価格競争」などが繰り広げられるため、あらゆる産業が「ブラック化」しており、それを覆い隠したツケがすべて「地方」にまわされるという悪循環も生まれている。

 経済メディアで、バイオだ、ロボットだ、AIだ、フィンテックだ、と明るい日本経済を夢想させるようなキーワードが飛び交っているものの、老年人口比率が3割を超え、生き残りの道を探す大島町のような「地方の町」にとっては「別世界の話」というのが本当のところなのだ。

 だからこそ、「観光の産業化」が重要になってくる。

●「観光」と「おらが村自慢」をゴチャマゼに

 「観光」には革新的な先端技術は必要ない。大規模な工場もいらない。歴史的建造物、伝統文化、自然などその地域にしかない「観光資源」を掘り起こし、観光客を受け入れるだけの整備を行えば、宿泊、飲食、土産物や名産品などの小売、タクシー、観光ガイドなど幅広い雇用を生む。「基幹産業のない人口減少社会」にとって、実現のハードルが低いうえ、実利も多い産業なのだ。

 そういう意味では、大島町が「観光振興の起爆剤」を模索しようというのは、ごく自然の流れというか極めて真っ当な判断だと思う。ただ、そこで1億9000万円の「シン・ゴジラ像」にすがってしまうあたりがマズい。これまで我が国における「観光の産業化」を妨げてきた問題がモロに露呈してしまっているからだ。

 それはズバリ言わせていただくと、「観光」と「おらが村自慢」をゴチャマゼにしてしまっている問題だ。

 そもそも、伊豆大島にシン・ゴジラ像ができるというニュースを耳にした方の多くは、「なんで?」と首をかしげたのではないか。映画でゴジラは東京湾から上陸して、多摩川河川敷で陸上自衛隊と一戦を交え、最後は東京駅で朽ち果てた。ぶっちゃけ、「伊豆大島」と聞いてすぐに「ああ、ゴジラの島ね」と連想する人はマイノリティではないだろうか。

 しかし、伊豆大島の観光関係の方たちはそういう認識ではない。実は1984年の映画では、ラストでゴジラが三原山の火口に落ちて、89年の映画ではそこから復活を果たしていることで、地元では「三原山=ゴジラの聖地」という位置付けなのだ。

 このイメージをさらに広めようということで、大島町は「伊豆大島ゴジラアイランド化計画」を立案。国から地方創生加速化交付金がいただけるという運びとなり、じゃあヒット映画にあやかってシン・ゴジラ像を建てましょう、という流れになったのである。

 「伊豆大島って言ったらやっぱゴジラだよね」という声が島の外から多数寄せられたので、多額の投資をしてでもゴジラ像をつくろうという話になるのなら分かる。が、経緯を見るとどうもそういうわけではなく、「30年前の映画の舞台になった」というかなりビミョーなところを拠り所にして猛プッシュをしているようなのだ。

●伊豆大島の「おらが村自慢」気質

 「観光振興」や「町おこし」なんてそんなもんじゃないの、と思うかもしれないが、冷静に考えると、これはかなり「異常」な考え方である。どんな商売でも「客」という相手がいなくては成立しないので、まずは「客」のニーズを調べる。ビジネスの世界でも、市場調査や顧客の声を吸い上げるのは基本中の基本だ。

 しかし、どういうわけか日本で「観光の産業化」を目指していく際には、そういうプロセスは踏まない。「客」がどう思っているかなど関係なく、観光業をしている側の人間が「観光してもらいたいポイント」を押し出す。「ウチの村はこんなにいいところなんですよ」という「おらが村自慢」の域を脱していないのだ。

 実際に、公益財団法人東京市町村自治調査会の「島しょ地域における観光ニーズに関する現況調査」で事業者と来島者へアンケートを行ったところ、伊豆大島の「おらが村自慢」気質が見事に浮かび上がっている。

 例えば、伊豆大島のイメージとして、島の観光事業者の64.8%が「ハイキングや登山に最適」だと思っているが、インターネット調査をしたところ、そういうイメージを抱いている人は2.8%しかいなかった。

 また、来島者に求める観光メニューを尋ねたところ、「漁業体験」などを欲する比率が高かったが、島の事業者で必要だと思っている人は少なかった。代わりに、事業者は「島全体の観光地や歴史等の案内ができるガイド」が絶対に必要だと思っている人が多くいたが、旅行者はそれほど必要だと思っていなかった。

 もちろん、伊豆大島の名誉のために断っておくと、このように「もてなす側」と「もてなされる側」の間に悲劇的なニーズのすれ違いがあることを踏まえて、それを埋めるための地道な努力も進めている。

 例えば、来島者の多くが「観光地全体をめぐる宝探しイベント」を求めているということで近年は宝探しイベントを積極的に行っている。チームでコンパスと地図を用いて宝探しをするという世界的に人気なアクティビティ「ロゲイニング」も2016年で4回目を迎えている。

 こういう努力をしてもなかなか観光客数がドカンと跳ね上がらないので、藁(わら)をもすがる思いで、映画『シン・ゴジラ』のヒットにあやかったということなのだろう。

 ただ、個人的には人気者にあやかろうというのなら、ゴジラより遥かに伊豆大島と縁の深い「あのキャラ」にたよればいいのにと思ってしまう。

 呪いのビデオテープでお馴染みの映画『リング』の貞子である。

●「貞子」が毛嫌いされる理由

 1998年公開され18年が経つ今でもUSJのホラーイベントで登場したり、『貞子VS伽椰子』なんて続編もつくられるホラーキャラクターの貞子は実は伊豆大島の出身。詳しくはググっていただきたいが、超能力者だった貞子の母はインチキ霊能者と迫害を受けて、三原山に身を投げる。呪いのビデオにも三原山の映像が登場している。

 2015年1月31日の『朝日新聞』によれば、『観光客のなかには、今も「ロケ地はどこですか」と尋ねる人がいる』というほど、ホラーファンの中では「三原山=貞子」というイメージは根強い。1億9000万円で、シン・ゴジラ像を建てるのなら、伊豆大島の伝統的な民家を改装して「貞子の生家」でもつくったり、三原山の火口をはじめ、映画さながら、島内をめぐって「貞子の呪いを解くミステリーイベント」でもやったらどうか。伊豆大島の歴史のPRや伝統文化の保存にもなる。一石二鳥だと思うのだが、伊豆大島の事業者からするとそのような方向性は言語道断のようだ。

 先の『朝日新聞』で、大島観光協会会長の白井岩仁さんが苦笑いしながらこんなことをおっしゃっているのだ

 「正直なところ、リングは島の観光にとってあまりありがたくないですね」

 なぜゴジラはよくて、貞子はここまで毛嫌いされるのか。それは三原山の「負の歴史」を思い起こさせるからだろう。

 『三原山噴火口は戦前、自殺の名所だった。観光協会刊『大島観光史』などによると、昭和8(1933)年、東京の女学校生の自殺報道を契機に、9月までに129人死亡。未遂者も多く「三原山病患者」と呼ばれた』(朝日新聞 2015年1月31日)

 住民感情としてはよく分かるが、世界的に見てもこんな不思議な事件が起きた火口は珍しい。「Jホラー最恐ヒロインの故郷」との相乗効果で、「ミステリーアイランド」として訴求すれば、これまで伊豆大島に見向きもしなかった観光客が足を運ぶことだってある。実際、米国のセドナのように、1億9000万のシンボルなどなく奇岩がゴロゴロしているだけなのに、「パワースポット」というだけで世界中から観光客が訪れているケースもある。三原山の奇岩群などうってつけだ。

 いや、とにかく「貞子」と「ミステリースポット」だけは伊豆大島的には絶対NGだというにしても、「シン・ゴジラ」に手を出す前にまだまだやれることは山ほどある。

 例えば、島に訪れた人々の多くが求めている漁業体験だが、現在、大島観光協会のWebサイトを開いても、「漁業体験」という文字を見つけることができず、かろうじて「釣り船」とあるが連絡先は2つしかない。

●地域の「観光資源」はどこにあるのか

 「観光産業」というのは、北朝鮮のバカでかい将軍様のようにシンボル像などつくらなくても、その土地がもつ「観光資源」を整備するだけでもかなり効果がでる。例えば、伊豆大島には度重なる噴火の火山灰、砂礫(されき)が作り出した「裏砂漠」という黒い砂漠がある。まるで火星のような不思議な風景だが、観光客は延々と歩いて到着し、写真を撮って帰るだけだ。

 カタールなどの砂漠ツアーのようにランドクルーザーを走らせろまでとは言わないが、バギーや自転車、あるいは馬などのツアーを整備して、体験ができるように整備すべきだ。

 そういう意味では、高さ30メートル、90層から成るバウムクーヘンのような「千波地層断面」も同じだ。ここは伊豆大島のガイドブックに必ず紹介される景勝地でありながら、「立入禁止」の立て札があるだけで、まったく観光地化されていない。

 ここもレンタカーや観光バスで訪れて、「へえ」と見上げて帰るだけで観光客は1円も金を落とさない。この断層でクライミングができるというのなら観光の目玉になることは間違いない。触っていけないというのなら、ハシゴ車のようなものや見学棟を立てて、お金を払った観光客は、迫力満点の地層を眼前に楽しめるという「ビジネス」にすべきだ。

 また、三原山の頂上では、1951年に溶岩流で形成された三原ホルニトケイブという世界的にも珍しい洞窟があるが、こちらも調査研究のために年に数回しか公開されない。つまり、伊豆大島には、この地にしかない素晴らしい「観光資源」がまだ手つかずのままゴロゴロしているのだ。

 「観光振興の起爆剤」というのなら、地域の政治家はシン・ゴジラ像のようなハコモノの予算を引っ張るのではなく、「立入禁止」と「保護」でがんじがらめになっている文化財や自然遺産を「観光資源」として利活用し、地域の人々に「カネ」がもたらされるような規制緩和を進めなくてはいけないのだ。

 ただ、ここでひとつ問題がある。地域の政治家はもちろん観光業者ですら、自分たちの地域の「観光資源」がどこにあるのか分からないということだ。確かに、自分自身を俯瞰(ふかん)して分析するというのはかなり難しい。

●「観光資源」を発掘する仕事

 そう考えていくと、2017年に間違いなく注目されるのは、客目線で各地域の「観光資源」を発掘する仕事だろう。「観光コンサルタント」でしょと思うかもしれないが、あの方たちは役所に雇われて、観光振興予算が目当てなので、どうしても「シン・ゴジラ、キテますよ」「お台場のガンダム像みたいのをつくればマスコミもきますよ」なんてハコモノ的な提案を行いがちだ。筆者が言いたいのは、役所から完全に独立した立場で、その地の観光業者が嫌がるような耳の痛い指摘をしていく覆面調査員(ミステリーショッパー)のようなものだ。

 白紙撤回されたシン・ゴジラ像には、国から8000万円の地方創生加速化交付金が出ていたという。全国の市町村に1億円をバラまいた「ふるさと創生事業」で、そんな大金を何に使ったらいいのか分からない村長さんたちが、「純金のこけし像」なんかに1億円を注ぎ込んだ構図とほぼ変わらない。

 日本全国に「観光資源発掘調査員」を送り込んで、「おらが村自慢」を徹底的に崩壊させる。成長戦略がサッパリだと叩かれている安倍さん、いかがでしょう。こっちのほうがよほど地方創生になりますぜ。

(窪田順生)

コメント数 10 *複数のAPIを使いコメント保存しています。

ultra 2017-01-01 13:58:45


すごーくうざい。独りよがりな独白をだらだら書いてるだけの残念なネット記事。


syu***** 2017-01-01 14:04:02

じゃあ、去年の紅白も残念だったね。


han***** 2017-01-01 14:42:19

三原山が大噴火してゴジラが実際に現れようもんなら、とんだ大事だけどな


our***** 2017-01-01 14:51:39

*このコメントは削除されました。


kyo***** 2017-01-01 14:56:56

残念な自治体だね


zer***** 2017-01-01 15:13:38

これはなかなか興味深い内容だった。

なぜか観光行政というのはゆるきゃらだのご当地グルメだの世界遺産候補だのと、観光で大事な「ほかの地域との差別化」より「全国横並び」の方向に進んだ。
これが顕著になったのは観光庁ができた2008年辺りからで、結局のところ、国の金に地方が群がり食いつぶす相変わらずの構図であって、この食いつぶし方に博打的な嫌らしさを感じていた。

地域観光の活性化にそんな金の使い方をするなら、震災の復興支援のように、旅行代金の割引に補助金を充てるような方法の方が有効だと思うけどな。


超・ダマちゃん 2017-01-01 15:13:51

観光よりも米軍基地呼んだら?


wdt***** 2017-01-01 15:23:47

豪華な箱モノを作っても、そのうち噴火で壊れそうだが。


アナベル・加トー少佐 2017-01-01 16:15:38

>おらが村自慢

地方で驚くのは「自己顕示欲」と公務員。
顕示するようなものは皆無なのにやたらと押し付けてくる。
地方の公務員は自分達が何か偉いと勘違いしているし、ダメ出しが仕事と思い込んでいる。


ayz***** 2017-01-01 18:58:57

ゴジラファンとしては名所と認定出来るのはベーリング海と日本海溝。陸地では国会議事堂と品川~芝浦~お台場辺りの方が馴染み深い。登場回数では三原山よりも富士山の方が多い。






関連記事












コメント数 ランキング



阪神 ドラフトに「風評被害」直撃(東スポWeb)
コメント数 49   2019-10-17 17:00:02










新着ログ