【浅野温子】美しく可憐な女子高生が私の高級自転車を盗もうとしていた——爪切男のタクシー×ハンター

2017-01-01 13:40:01


終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分——さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。

【第十七話】「自転車は自分に合った自転車に乗るのが良い。恋人と同じ自転車に乗るのはもっと良い」

メルマガ編集長とエロ動画サイト運営という二足の草鞋を履く働き方をしていた頃、日々のストレスを暴飲暴食にて解消するようになった私の身体は、それはそれは醜く太り始めた。上京直後に50キロだった体重は80キロまで増加し、ヒョロッとしたモヤシ体形だった四国の田舎者は、渋谷の路上で黒人にぶつかられても微動だにしない屈強な都会の戦士に成長した。

私の健康を案じた社長から、自転車通勤を強く勧められた。自宅の中野から職場がある渋谷まで、自転車での所要時間はおよそ40分だ。正直面倒臭かったが、社長が「ビアンキ」とかいう外国有名メーカーの高級自転車をプレゼントしてくれたので、そこまでしてくれるならばとしばらくの間は自転車通勤をすることにした。

よく言われるように、年長者の言葉には素直に従うものである。最初のうちは疲労しか感じなかった自転車通勤も、徐々に慣れてくると非情に有意義な時間に変わった。渋滞に巻き込まれずにスイスイと進める快感、電車の時刻や乗換を気にしないでいい気楽さ、面白そうなお店を見つけたらフラリと立ち寄ることのできる自由さ。その全てが気持ち良かった。

しばらくすると、たまの休日でさえも、自転車にまたがって知らない街まで足を延ばすようになった。寂れた商店街にてめちゃくちゃ美味しいカツ丼を作る定食屋を発見する喜び。「腹も満たされたし次は女だな」と立ち寄った郊外の激安風俗店にて、アタシは20歳だと言い張る40歳を過ぎた砂かけババアをあてがわれ、「砂をかけられるぐらいなら先に俺の精子をかけてやる」と予定外の顔射をしてしまった挙句、高い高いオプション料金を払わされる悲しみ。どんなに嫌なことがあっても、キコキコと自転車をのんびりこぎながら、知らない街の風に吹かれつつ家に帰っていると、全てを「ま、いいか」で済ますことができる。自転車というものは本当に不思議な乗り物だ。子供の時よりも大人になってから乗る方が楽しいのだから。

ある日の仕事帰り、時刻は深夜3時を回っていた。今夜はどこに寄り道して帰ろうかなと愛車のもとに急ぐ私。そんな私の目に飛び込んで来たのは、今まさに私の自転車を盗もうとしている自転車泥棒の姿であった。歳は20歳前後の兄ちゃん、夜の暗がりでも分かるぐらいの派手なドクロ模様が入ったパーカーを着ている。モンキースパナのような器具を使っているところを見ると、おそらく常習犯だろう。すぐにとっ捕まえてもいいが、ここはひとつ泥棒を泳がせることにした。

駐車場を出てすぐの大通りでタクシーを捕まえ、自転車泥棒が現れるのをひたすら待ち続ける。駐車場から出られる道はこの一本しかない。泥棒は必ずここを通る。私の目論見通り、自転車泥棒は私の自転車を颯爽と乗りこなして、大通りにその姿を見せた。目鼻立ちの整ったイケメン泥棒め、悔しいかな、私よりも外国製の自転車がよく似合っているではないか。

「運転手さん、あの自転車の男を追いかけてもらっていいですか?」

「え、どういうことですか?」

「あいつ、僕の自転車を盗んだ泥棒なんです」

「そうなんですか!」

「すぐに捕まえてもいいんですけど、このまま尾行してやろうかなって」

「早く通報しましょうよ~」

「持ち主に尾行されてるとも思わずに、上機嫌で自転車こいでるバカを見たいんですよ」

「お客さん、性格悪いですね」

「運転手さんもたまにはこういうのがあった方が退屈しないでしょ」

「私は何もない一日が一番うれしいです」

志垣太郎によく似た濃い顔の運転手は渋々タクシーを発進させ、前を行く自転車泥棒を追い始めた。自転車泥棒は快調なスピードでネオン煌めく夜の街を駆け抜けていく。あっという間に見失うことも懸念されたが、幸いなことに、深夜は車の流れも非常にスムーズなので、タクシーはぴったりと自転車泥棒のお尻を逃さず尾行を続けていた。最初は乗り気じゃなかった運転手も、次第に楽しくなってきたのか鼻歌交じりで運転をしている。いい気なもんだ。

思い返してみれば、自転車泥棒に関してはどうしても忘れることのできない苦い思い出がある。

高校二年生の秋、文化祭の準備で帰宅が夜の9時過ぎになった日のこと。場所は最寄駅の自転車置き場だった。当時の私は「家が貧乏でも自転車だけは格好良い物に乗りたい」という変な意地から、16段階の変速ギアが搭載された無駄に高価な自転車に乗っていた。ぼんやりとした薄オレンジ色に光を放つ自転車置き場のボロ照明。その光にスポットライトのように照らされながら、私の真っ赤な自転車を盗もうとしている茶髪の女がいた。彼女の顔には見覚えがある。私が中学の時に好きだった女の子だった。

女優の浅野温子によく似ていた彼女は、中学生とは思えない大人びた佇まいと美貌を兼ね備えており、男子からの人気はすごかった。人気はすごかったのだが、あまりに美人過ぎるので容易に声をかけられない雰囲気があり、男子を寄せ付けなかった。中学三年の時、席替えでそんな彼女と隣同士になった。ある日の退屈な社会の授業中、彼女の方から突然話しかけてきた。

「なぁなぁ? あんたってゲームとかする人?」

「え……そこそこはするけど……」

「テトリスってやっとる? あのパズルゲームの」

「……うん、やっとるよ」

「強い?」

「……そこそこは強い」

「じゃあ明日ゲームボーイ持って来てよ! 対戦しよや! 女の子じゃ弱すぎて相手にならんのよね~」

どうして私に話しかけてくれたのかは分からない。ゲームオタクにでも見えたのだろうか。翌日、狐につままれたような気持ちで私はゲームボーイを持参した。彼女はニッコリと笑ってゲームボーイを取り出した。その日から二人のテトリスが始まった。授業中に先生の目を盗んでは対戦を繰り返した。自分で「強い」と豪語するだけあって、普通の女子よりは強かったが、私の敵ではなかった。彼女は、負けた時は下唇を思いっきり噛んで悔しがり、勝った時は万歳三唱をして喜んだ。可愛かった。彼女が落とすテトリス棒の軌跡は、今まで見たどんなテトリス棒よりも美しかった。私は恋に落ちていた。何度か告白しようとも思い立ったが、当時の私の顔はひどいニキビに覆われており、その醜悪な顔が告白する勇気を奪った。

「告白して嫌われるぐらいなら、一生テトリスを一緒にしていたい」

自分の気持ちに踏ん切りをつけた私は、卒業まで彼女とのテトリス対戦を楽しんだ。一緒の高校に通える奇跡が起きないかとも期待したが、壊滅的に頭が悪かった彼女は、県内でも札付きの不良が通う工業高校に進学した。学年に女生徒は三人ぐらいしかいないらしく、ただでさえ可愛い彼女が女に飢えた不良共の餌食になることは容易に想像がつき、とても悲しい気持ちになった。不良達の極太テトリス棒を入れられて喘いでいる彼女を妄想して布団の中で泣いた。高校進学と同時に彼女と会うことはなくなり、恋心も次第に冷めていった。恋が終わるのと時を同じくして、私の顔のニキビは無くなった。

そんな彼女が私の自転車を盗もうとしている。どうしたらいいか分からずに立ちすくんでいる私の気配に気づいた彼女は、敵意むき出しの表情でこちらを睨みつけてきた。だが、すぐに私のことを思い出した。

「わぁ! 久しぶりじゃん!」

「……久しぶり、何してんの?」

「自転車盗んでるの」

「なんで? 自分の自転車は?」

「道路に停めてたんやけど、警察に持ってかれちゃった」

「……そっか、けっこう良いやつ盗んでるね」

「どうせ盗むんなら良いやつ盗みたいやん」

「……手伝ってあげるわ」

「ほんまに? ありがとう!」

かくして、私は自分で自分の自転車を盗むことと相成った。彼女が苦戦していたのは、後輪に付いていたチェーン型のナンバーロックだった。力任せに切れる代物ではない。その強度は私が一番知っている。もちろん私は暗証番号を知っているので、やろうと思えばすぐに解除ができたのだが、少しだけドラマチックな演出をした。まずは力技でチェーンを切ろうとするもあえなく失敗する。その後で適当に数字を入力し始めて、偶然を装ってロックを解除する。その奇跡を目の当たりにした彼女の驚く顔が見たい。暗証番号は「9465」で覚える語呂合わせは「苦しむ六つ子」である。こういう演技をするのは苦手だったが、できるだけ自然に行動した。私が鍵を開けた瞬間、目をまん丸にして驚いた彼女は、私の腕に抱きついてきた。こういうオーバーリアクションを取るところも昔から大好きだ。自分の腕に当たる彼女のふくよかな胸の感触に軽い眩暈を覚えた。

嬉しそうに私の自転車のサドルにまたがる彼女の姿は純情可憐だった。真っ赤な自転車が私より似合っている。まるで彼女の為に作られた自転車のようだ。

「どうして君は泥棒という悪さを働いた後でさえそんなに可憐で美しいのか!」

そう叫びたくなる衝動を抑えて「自分は徒歩通学だからそろそろ帰るよ」と嘘をついて帰ろうとした私の背中に彼女の言葉がかかる。

「じゃ、途中まで二人乗りで一緒に帰ろう! 御礼もする! 帰りにたこ焼き奢ってあげる!」

私に断る理由などなかった。生まれて初めての女の子との二人乗り自転車。しかも自分の大好きな彼女を後ろに乗せてだ。一緒に泥棒を働き、そのお祝いに熱々のたこ焼きを食べる。これ以上の晩御飯があろうか。私の為に食事を作って待っている祖母には悪いが、私はたこ焼きが食べたかった。世界で一番美味しいたこ焼きを。後輪に二人乗り用のステップを取り付ける。彼女は私の両肩にすいっと手を置いてステップにまたがる。やけに慣れた動きだ。きっと色んな男とこんな風に二人乗りをするので慣れてるんだろうなと思ったが、今は考えないようにする。二人の自転車は走り出す。先ほどは腕に感じた彼女の胸の感触を今度はしっかりと背中に感じながら。田んぼと畑しかないド田舎の風景が輝いて見えた。目指すは夢のたこ焼き屋だ。

私の人生において、幸せというものは本当に長く続かない。

あまりにも堂々と自転車泥棒をしていた私達は、その様子をしっかり見ていた自転車置場の係員のジジイに通報され、駆け付けた警察にあっさりと捕まってしまった。警察署まで連行された私達は簡単な取り調べを受けた。学校と親に連絡されて「もう二度としません」という反省文の一つでも書けば終わるようなことだったが、警察が自転車の防犯登録を照会した結果、私が、自分で自分の自転車を窃盗したことが明るみに出てしまい、話は俄然ややこしくなった。「なぜ? なぜなんだ?」と詰め寄る警察に、適当な理由を並べ立ててはみたものの、納得してもらえる答えなどありはしない。もう嘘をつき通すことができなくなった私は真実を話すことにした。彼女の為を思い、自分の自転車を壊したことが分かれば、彼女は私の気持ちに感動して好きになってくれるかもしれない。本当にわずかな可能性ではあるけども。それに真実が分かれば彼女の泥棒の罪も少しは軽くなるだろう。所有者の私が許すのだから。

私は洗いざらい全てを話した。

「えっ……」

という彼女の一言が室内に響き渡った。沈黙が室内を包む。それだけだった。それが全てだった。終わりはいつもそんなもんだ。

程なくして警官はニヤニヤしながら「この娘を守ろうと思って自分の自転車壊したんだね~」といやらしく言った。彼女は何も答えなかった。

私に関しては、二人乗りに関してだけの厳重注意となり、特にお咎めなしですぐに家に帰された。彼女はこれから親を呼んでの話し合いになるらしい。私が部屋を出ていく時も彼女は私の方を見ようとはしなかった。後日、親と一緒に私の家に謝罪に来た時も彼女はずっとうつむいていた。彼女の親はお詫びの品としてめちゃくちゃ美味しいカステラを持ってきた。彼女と一緒に食べるたこ焼きを夢見た私の目の前にはカステラがある。彼女とはそれっきり話すことも会うこともなかった。

時は過ぎ、成人式の日、遠くから彼女を見た。相変わらず綺麗だ。両脇に二人の子供を抱えて幸せそうな笑顔を浮かべていた。双子を産んだらしい。

「双子か……やるじゃん」

というよく分からない賛辞を遠くから送った。直接は伝えなかった。

タクシーの前を走る自転車泥棒の背中を見ていたら、久しぶりに自転車泥棒の彼女のことを思い出した。あの時の甘酸っぱい気持ちが胸に蘇る。自転車泥棒の男が後ろを振り返った。私にはあの日の彼女が振り向いたような錯覚を覚えた。

「運転手さん、もう追いかけなくていいです」

「え? いいんですか?」

「はい、もういいんです」

「でも、とっても大事な自転車なんですよね?」

「いや、嘘なんです。ドラマみたいに尾行ごっこしたかっただけです」

「あっ……そうなんですか……」

「面倒くさいことしてごめんなさい」

「ちゃんと料金払ってくれたら何も文句はないですよ」

しばしの沈黙。

「運転手さん、さっきの自転車の兄ちゃんなんですけど」

「はい」

「かっこよかったですよね、あの自転車がよく似合ってましたよね」

「そうですね」

「僕も自転車買いましょうかね」

「いいですね~」

「運転手さん、僕にはどんな自転車似合いますかね」

「そうですね~う~んう~ん」

「……」

「ママチャリですかね」

「なるほど」

「失礼ですけど、さっきの人みたいな高そうな自転車は似合わない気がします。若い人がよく乗ってる小さなおしゃれな自転車も」

「そう見えますかね」

「お客さんは笑顔でママチャリ乗ってるのがすごく似合います。それを見てる周りの人もニコニコできそうです」

「嬉しいです、ありがとうございます」

「失礼ですが、お客さんは彼女さんはいらっしゃるんですか?」

「います」

「それなら彼女にもママチャリを買ってあげてください」

「いいですね」

「自転車は自分に合った自転車に乗るのが良いです。そして恋人と同じ自転車に乗るのはもっと良いです」

次の休日、睡眠薬の飲み過ぎでなかなか起きない彼女を叩き起こして私は言った。

「自転車買いに行こう」

文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。 https://twitter.com/tsumekiriman

イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。「オモコロ」で「有刺鉄線ミカワ」など連載中。鳥が好き。 https://twitter.com/pote_mitsu

コメント数 15 *複数のAPIを使いコメント保存しています。

dis***** 2016-12-29 09:33:06

ただ長いだけの妄想文


b o 2016-12-29 09:50:51

やけに癖になる文章でした


abcde 2016-12-29 10:16:32

< 壊滅的に頭が悪かった彼女

どんだけ頭悪いか逆に興味がある。


roo***** 2016-12-30 07:51:14

長い


hi_***** 2016-12-30 17:52:44

テトリス棒w


mam***** 2016-12-30 17:58:59

自分で買ったならまだいいが、貰ったものなら大事にしろよ。


hir***** 2017-01-01 21:26:24

 これが本当の話だとしても、自転車泥棒にまんまと逃げられただけじゃん。


md4***** 2017-01-02 02:54:18

貰ったものだから思い入れがイマイチないんでしょ
まぁビアンキくらいで高級言われてもなあとも思う


skapaaa 2017-01-01 13:15:18

半分読むのが限界


4 2017-01-01 13:20:20

目がもったいない


mak***** 2017-01-01 13:32:39

我慢して最後まで読んでみたけど、正月早々残念な気持ちになってしまったよ…


mor***** 2017-01-02 10:36:35

俺は結構好きかも


dai***** 2017-01-02 12:16:45

長い


zxz***** 2017-01-01 19:31:31

阿保じゃないの
医者に行けば 阿保主


acc***** 2017-01-02 13:37:50

くだらないマスタベ小説を公の場に出すなよ。






コメント数 ランキング












新着ログ